大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和59年(刑わ)442号 判決 1985年7月29日

主文

被告人を懲役二月に処する。

この裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。

差戻前の第一審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(犯行に至る経緯)(略)

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五三年八月二三日午後零時三〇分過ぎころから午後三時三〇分過ぎころまでの間において、長野県北佐久郡軽井沢町大字長倉字獅子岩二、一四七番一六五の一所在の波多野リボオ及びその家族が居住する波多野勤子所有の別荘の敷地内に、勤子から洋書センターの労働問題等に関し面会する意思がない旨申し入れられていたにもかかわらず、右問題に関し、同女に対して強いて面会を申し込む目的で入り込み、もつて故なく人の住居に侵入したうえ、同別荘玄関左右の板壁に、所携のサインペンでそれぞれ「波多野勤子は会社を再開しろ 解雇撤回をかちとるぞハタノビルでの再開をかちとるぞ 波多野勤子の責任をどこまでも追求するぞ! 波多野よ逃亡を止め団交を開け」「波多野勤子はただちに洋書センターの争議を解決しろ!」などと黒書し、もつて、みだりに他人の家屋を汚したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)(略)

(弁護人らの主張に対する判断)

一~二(略)

三 1~3(略)

4 まとめ

以上認定したとおりであつて、これを要するに、被告人の本件立入行為当時、勤子が洋書センターの実質上の経営者或いは使用者であつたことの証左であるとして弁護人らが主張している事実は、いずれもさいこ社ビル及び新ビルの所有者であるさいこ社の代表者としての勤子が採つた行為として十分合理的であり、かつそれ以上のものとして理解する根拠は何ら見出し難いのであつて、弁護人らの主張は、事実を曲解したうえ、誤つた推論を重ねたものと評するほかはない。

以上のとおりであるから、本件立入行為当時、勤子は労組法七条二項の「使用者」に該当せず、したがつて、洋書センター労働組合との団体交渉に応ずべき義務を負うものではなかつたというべきである。

なお、勤子が被告人らによる同女の私宅等の訪問を峻拒していたことは前記のとおりであるところ、弁護人らは、勤子の使用者性が肯定されることを前提として、勤子としては被告人を含む洋書センター組合員らが平穏裡に面会、団交をなすことについてまで拒否したものではないし、勤子にそのような態様の行動まで拒否する正当な理由は存在しないところ、被告人の本件立入行為は、前記のとおり、組合の執行委員長が単身要求書を持参して平穏に訪問しただけのものであり、勤子がこれを拒否し得る正当な理由はない旨主張している。

しかしながら、勤子が使用者に該当しないことは既に認定したとおりであるから、被告人らとの面会、団交に応ずべき義務を有していなかつたことはもちろんのこと、たとえ平穏な態様の立入り行為であつても、これを拒否し得る立場にあつたことは明白である。

四~五(略)

以上の次第であつて、弁護人らの主張はいずれも理由がなく、採用できない。

よつて、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例